作成日:2021-09-22
更新日:2021-10-20
施行以来、度重なる改正が行われてきた「電子帳簿保存法」は、2022年1月、令和3年度税制改正の抜本的な見直しを受けて改正されます。
背景には、社会のデジタル化や新型コロナ禍で急速に普及したリモートワーク、経理業務の電子化による生産性向上などの事業者の働き方の変化があります。
電子帳簿保存法のこれまでの流れを振り返りながら、最新の改正法のポイントをご案内します。
電子帳簿保存法のこれまで
電子帳簿保存法は1998年に制定された法律で、「税法で保存が定められている国税関係の帳簿書類を、本来の紙保存から電子データに替えて保存することを認める」ものです。施行以来2005年、2015年、2016年、2020年と改正を行い、2022年1月に改正法(令和3年度税制改正)が施行されます。
電子帳簿保存法のこれまで
●1998年〜
主に紙による保存だった国税関係帳簿書類について、電子データによる保存が認められるようになりました。電子データ保存には条件があり、事前に所轄の税務署に電子化するデータの「届出」が必要なことや、電子化の際は「要件に見合ったシステム」であることなど、導入にはハードルが高いものでした。
●2005年〜
この年の改正で、「3万円未満」、「電子署名をする」という要件を満たせば、紙で発行した書類のスキャナによるデータ保存が認められるようになりました。
●2015年〜
「スキャナ保存」の要件から「3万円未満」と「電子署名をする」という要件が撤廃されます。そのかわり「タイムスタンプ」が導入されました。また複数人での定期検査が必要となりました。
●2016年〜
デジカメやスマホのカメラで撮影した領収書などのデータ保存も有効となりました。
●2020年〜
改ざんできない状態という条件を満たした場合に「電子データ自体」が税務上の証明として認められるようになりました。これにより「スキャナ保存」の作業が軽減されました。
以上のように、IT技術の進歩や社内業務のデジタル化の進展に合わせ、電子帳簿保存法の要件は段階的に緩和されてきました。
事業者にとっては徐々にハードルが下がり、導入しやすいものとなってきているのです。
2022年1月1日施行の改正法のポイントは?
今回の電子帳簿保存法は、抜本的な見直しということで廃止や緩和が増えており、コロナ禍のリモート経理を実現するためには絶好の機会と言えます。
改正電子帳簿保存法のポイントを確認しながら、今から準備を行ないましょう。
Point1 税務署長の事前承認制度が廃止 |
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これまでは、事前に税務署長の承認が必要でしたが、事業者の事務負担を軽減するため、事前承認は不要となりました。
対象となるデータは、
「電子的に作成した国税関係帳簿を電磁的記録により保存する場合」と、
「電子的に作成した国税関係書類を電磁的記録により保存する場合」
です。
適用は、「令和4年1月1日以後に備付けを開始する国税関係帳簿又は保存を行う国税関係書類について」からとなります。
Point2 優良電子帳簿制度の創設 |
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この制度は、保存義務が課される国税関係帳簿について、優良な電子帳簿の要件を満たして電子保存を行い、あらかじめ所轄税務署長に提出している事業者について、その国税関係帳簿(優良な電子帳簿)に関連した過少申告があった場合には、その過少申告加算税を5%軽減するというものです。
当然ながら、過少申告の隠蔽又は仮装された事実がある場合には適用除外となります。
適用は、「令和4年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について」からとなります。
Point3 電子帳簿書類の保存 |
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会計ソフト等で作成した帳簿や電子的に作成した国税関係書類(請求書や領収書など)、自己が作成した電子データをそのまま保存することが可能になりました。
<詳細解説>電子帳簿書類の要件
- 正規の簿記の原則(複式簿記)に従って記録されている
- 自己が一貫して電子計算機を使用して作成している
- 以下のイ~ハの要件を満たす
- イ)電子計算機処理システムの概要書その他一定の書類の備付けを行うことロ)電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書等を備え付け、ディスプレイの画面等に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができること
- ハ)国税庁等の当該職員の質問検査権に基づくその国税関係帳簿書類に係る電磁的記録のダウンロードの求めがある場合には、これに応じることとすること
電子帳簿の保存要件の概要は以下になります。
<表1>
*1 税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに、保存義務者が応じることができる場合は、検索要件②③の要件は不要となります。
*2 優良の要件を全て満たしている場合は、ダウンロード要件は不要となります。
Point4 スキャナ保存 |
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今回の電子帳簿保存法改正では、スキャナ保存導入の要件が大幅に見直され、紙の請求書や領収書などの原本の取り扱いについて以下のように緩和されました。
◯書類自署を廃止
- 受領者がスキャナ等で読み取る際に実施する国税関係書類への自署が不要になります。
◯タイムスタンプ付与期間を延長
- 現行では3営業日以内に付与しなければならなかったタイムスタンプが、記録事項の入力期間と同様、最長2ヶ月以内+7営業日へと緩和されます。
◯クラウド保存が可能に
- タイムスタンプに代えて、クラウド等(訂正又は削除を行うことができないシステム)での保存が可能になりました (受領者読取、他者読取共通)。これにより、タイムスタンプの付与が絶対条件ではなくなりました。
◯相互けん制要件の廃止
- 受領者がタイムスタンプ付与後に行われていた、「書類の受領者」「画像を照合する経理担当者」「保存要件を検査する第3者」のチェック体制などの他者の内容確認相互けん制要件が廃止されました。
◯定期検査要件の廃止
- これまでは、1年に1回以上、処理内容を確認する定期検査が必要でしたが、タイムスタンプ付与後は、紙の請求書や領収書などの原本の廃棄が可能になりました。
◯不正があった場合の重加算税の加重措置が整備
- スキャナ保存が行われた国税関係書類に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が10%加重される措置が整備されました。
Point5 電子取引の電子データ保存 |
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電子取引とは、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引をいい、取引情報とは、EDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイル含む)、そしてインターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引等のことをいいます。
具体的には、請求書等(注文書、契約書、送り状、領収書、見積書等)をシステムで作成しPDF化したものをメールに添付して授受する場合や、通販サイトで会社の備品等を購入し、サイトで発行された領収書PDFをダウンロードする場合などが電子取引となります。
電子取引に関する改正事項について
◯タイムスタンプ要件及び検索要件
- スキャナ保存と同様、タイムスタンプの付与期間と検索要件の記録項目について緩和されたほか、基準期間の売上高が1,000万円以下である方(小規模な事業者)については、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索要件の全てが不要となります。
◯電子取引に関わるデータの保存
- 電子取引のデータを書面出力によって保存する書面保存が廃止されました。
- たとえば、キャッシュレス決済(クレジットカードや交通IC等)の利用明細データも電子保存の対象となります。クレジットカード等で支払った際の利用明細データがそのまま領収書の代わりとなります。
◯不正があった場合の重加算税の加重措置が整備
- 国税関係書類に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又は仮装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が10%加重される措置が整備されました。
以上、改正法の主なポイント解説でした。
電子帳簿保存法の改正を機会に、いまからできること
こうした改正は今後も起こり得るので、その度に対応する社内の人員の確保と体制やルールづくりについて、頭を悩ませる事業者も多いことでしょう。
電子保存の運用や内部統制は、すぐ確立することは難しいものです。なぜなら、自社の電子保存する書類等の精査や、長期保管にも対応できるシステムの選定、不正を起こさない社内規程の作成には、人手も時間もかかるからです。
こうしたことから、最近の会計・経理のクラウドサービスには、お試しの無料期間といったものが導入されています。期間も1ヶ月と長く、アプリのほぼ全ての機能とサポートサービスも受けられるものがほどんどです。
クラウドサービスを直接使うことで、社内規程の検討や問題点の洗い出しが具体的に進むこともあり、事業にあったシステムのイメージも掴みやすくなります。
また会計・経理のクラウドサービスの多くは、改正される電子帳簿保存法に対応しています。
まず、今回の改正法に弾力的に対応する信頼のおける会計ソフトや経理クラウドサービスの無料トライアル期間を試してみてはいかがでしょうか。
関連リンク
国税庁:電子帳簿保存法が改正されました(令和3年5月)(PDF/1,115KB) |
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国税庁:「電子帳簿保存法取扱通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)新旧対照表(PDF/423KB) |
国税庁:電子帳簿保存法取扱通達の制定(全体版)(PDF/535KB) |