連載コラム 経理の疑問にお答えします

在宅ワーク時代の到来!経理の対応は?

在宅ワーク時代の到来!経理の対応は?

更新日:2020.11.27

 満員電車に揺られオフィスに出向き、同僚たちと机に向き合い、時には結論の見えない何時間にもわたる会議を行い・・・そういった従来からのワーキングスタイルが、「働き方改革」というキーワードのもと見直されてきた2020年の日本。
 そこに突如として襲った空前絶後の災害。
 これにより、「いつか」の目標を実行することを突如迫られた在宅ワーク。
 今回は、この在宅ワークの実態について見ていきましょう。

緊急事態宣言で街が、会社が大きく変わった!

 コロナウィルス感染拡大による災害は、まさに新時代へのパラダイムシフトと呼ばれる事件として日本の新たな歴史に刻まれることでしょう。「緊急事態宣言」の名のもと、突如出社が禁じられた環境の中で、多くの企業がこれまでミライの努力目標として掲げた在宅ワークの実行を現実のこととして迫られたからです。
 これにいち早く反応できたのは新興のIT企業です。
 これ以前から、リモート環境を整えてきたこれらの企業は、これまで週数日当てられていた在宅ワークの日数を伸ばせばよく、特に新しい環境を入れることもほとんどなく、スムーズに在宅環境に移行できたようです。
 

在宅ワークを悩ます情報セキュリティーの問題

 それでは、在宅環境が整わない企業とこれらの企業の間にはどのような違いがあったのでしょう?
 その最も大きな問題が「情報セキュリティー」の問題です。
 情報漏洩に関する事件は、近年、報道等で大きく取り扱われ、企業価値にまで影響します。
 そのため、多くの企業が情報が流出しないよう、企業内部から情報が持ち出されないように、強固なセキュリティーシステムを構築しているのです。
 公共無線LANなど、社外でインターネットに接続することを防ぐため、社外から内部のサーバーにアクセスできないよう制限されているのです。これが在宅ワークを阻む最も大きな問題となってしまったのです。
 そのため、急場しのぎの対応として、社外での作業は、社内の端末にアクセスし遠隔操作を行うなど、作業効率が悪く、しびれを切らせて出社して業務を行う人も出てしまったほど。システム環境は事前から対応できる備えがないと難しいようです。
 

ハンコを押しに出社。なくならないハンコ社会

 リモート化に早くから取り組み、出社がいらない環境を早くから整えている企業においても、どうしても出社しなければできないものが押印です。
 組織にとって、権限者の確認が取れているかは業務フローの中でも重要な点です。
 これまで、紙の資料を回し、各権限者が回覧をして押印していた制度は、業務ソフトの導入によりある程度システム内での承認確認ができるようになってきています。
 しかし、どうしてもなくらないものが金融機関や行政に関する書類の押印。
 提出期限が迫られているものは、作成した社員と承認を行う上司がスケジュールを合わせて出社しなければならないといった笑い話のようなことが現実に起こりうるのです。
 

リモート会議の始まり時と終わり時

 リモート環境で大きく変わった習慣の一つが会議の在り方。
 これまで時間に縛られず議題と外れた話をダラダラ行い、結論が見えないまま何時間、そんな状況が当たり前であった会議が、リモート下では、事前にまとめた要点について、数分の話が行われた後はあっさり終了。いままで、どれほどの時間を無駄に使っていたのかと驚嘆したひとも多いでしょう。リモート環境によって仕事に集中できる時間が増えたのは喜ばしい結果です。
一方で、これまでは会議を開くまでに至らないちょっとしたアイデア を、休憩室で軽く打ち合わせ、そんな時間が対面だと簡単に取れていたものが、リモートだと「あえて会議時間を設定する問題なのか?」と、なかなか簡単には誘い辛いとの声も。
 対面だと話せることも、オンラインだと話しづらい、逆もまたしかり。
 新たな取り組みはいろいろな発見があるようです。
 

これからの社会とリモートワーク

 これからは個の時代と言われています。今後、ますます仕事に対する考え方が変わっていく中で、優秀な人材をそろえるための一つの要素としてリモート環境を整えることは避けられない課題となっていくでしょう。
 これまで、理想とされていた環境が、このウィルス大事変によって強制リセットされる今を好意的にとらえると、この先、どこにいてもオンラインでつながっている限り仕事ができる、そんな理想の環境が訪れるきっかけとなったということです。
 もう、住むところは毎日サーフィンが楽しめる海辺の家でも、高齢の親が暮らす慣れ親しんだ実家でもいいのです。
 そんな理想が現実となる時代が、もうそこまで来ている!・・・のかもしれません。

国が進めるキャッシレスの方針

 こうしたキャッシュレス化の取り組みは行政のあり方にも影響します。
 2018年に経済産業省が打ち出した「キャッシュレス・ビジョン」では、クレジットカード会社が保有する決済情報のデータをカード会社のアプリケーションから直接呼出し、利用するAPI(Application Programing Interface)連携により、国民にとって利便性のよいサービスへの活用を検討しています。
 特に経理処理においては、これらのデータ連携を利用した会計ソフトが多数発売されており、これをうまく利用することで決済データを手で入力することなく取り込むことが可能となっているのです。
 また、今後はマイナンバーの活用により、行政と民間が相互にデータを利用することで、年末調整などのようにこれまで紙で提出していた多くの文書がデータの相互交換でできる未来も描かれています。
 これは、これまでかかっていた作業時間を減少させ、働き方改革にもつながる効果が期待できるのです。

なぜ、日本ではキャッシュレスが進まなかったのか?

 それでは、なぜこれまで日本ではキャッシュレスが根付かなかったのでしょうか?
 その理由の一つに、「お金」に対する信頼度の高さが挙げられます。
 日本のお札や硬貨は戦後から数度刷新されてきましたが、その都度世界一ともいわれる最新の偽造防止処理が施され、そもそも偽札をもらうというリスクが考えづらかったのです。これに対し、キャッシュレス大国となった中国では、流通するお札の信頼度が低かったことがキャッシュレス化の引き金になっています。
 さらに、中国では国が生活インフラをAlipayという一つのアプリで完結できるように制度設計しているため、このシステムにのったキャッシュレス決済の利便性がより高まっているのです。たとえば、レストランの予約をアプリ内で行い、そのアプリ内のウォレットで決済まで行えるといった具合です。「キャッシュレス決済は、便利だから使う」というのが国民に浸透が速まる最大の理由なのです。

キャッシュレス決済の多様化と資金繰り

 こうした背景もあり、国が一丸となりキャッシュレス政策に取り組んでいるのですが、これには少し経理作業を悩ます効果もあります。
 それは「資金繰り」の問題です。
 現金の利便性は売上金をすぐに支払いに回せるという点です。大手ファミリーレストランでは、顧客単価を低く設定する代わりに、在庫の保有量を最小限にして支払い方法を現金のみとしています。企業は売上の入金を見越して、仕入代金の決済を行わなければならず、そのため在庫を保有しなければなりませんが、現金の流動性が高ければその都度仕入れることができ、手元資金が少なくても資金繰りは問題なくつくのです。
 しかし、こうした業態においては、売上金が数日間決済会社で拘束されてしまうキャッシュレスは大きな問題になります。特に小規模な店舗ではその影響額が大きいことから、最近では決済日数を大幅に減らし、決済後2~3日で入金されるサービスも出ています。そのため、サービスを選択する際は、契約内容を精査し、どのサービスなら資金繰りを悪化させずに取り入れることができるのかを検討することが重要なのです。

情報のデータ化とキャッシュレス決済の今後

 経産省のキャンペーンが終了したなかで、今後キャッシュレス決済はどうなっていくのでしょうか?図らずも新型コロナウィルスの災害により、行政のデジタル化が見直されています。さまざまな手続きを手作業で行うことは、災害下においては対応しきれず、国民生活を脅かす時代にまでなってきているのです。お金の動きがベースにある会計データの正確性は、こうした災害時に素早く対応するためにも必須の情報となっています。
 そうした中で、キャッシュレス決済を中心とした会計情報のデジタル化は、社会を安心で豊かなものにしていくため、これからも進化しつづけるでしょう。