連載コラム 経理の疑問にお答えします
大量の文書の管理はどうなる?
経理のペーパーレス時代の到来

経理のペーパーレス時代の到来

作成日:2021-02-03

 在宅ワークにより、会社や仕事の在り方が変わると言われる時代。
 地震や洪水など、これまで体験したことのない規模の災害に見舞われる今日の災害大国日本においては、オフィスの文書保管についても変化が必要な時代になっています。
 今回は、文書のデジタル化について見ていきましょう。

押印文化と権限管理 

 文書のデジタル化を阻む最も日本的な要因、それがハンコ問題ではないでしょうか?
 これまで、経理を取り巻く環境は、ハンコ、ハンコ、ハンコ。
多くの経理書類に担当者印、上長印と並べて押印していくことが求められます。
 
 この押印の本来の目的は一体何でしょう?
 これは、企業の内部統制の問題にあります。
 
 企業が成長し、拡大していくにつれて、取引量は増え、意思決定を迅速に行うには部署を分け、権限を細分化する必要が出てきます。
 経理で扱う文書は「会社のお金」に直接影響します。そのため、そのお金に関する取引を「誰の権限で」行うか?というのは不正を見つける際に重要なプロセスなのです。
 
 そのため、誰の権限でその取引を許可しているかを明確にしなければならず、これを物理的な印鑑を押すことでこれまで行ってきたのです。

社内文書をなくす取り組み

社内文書イメージ
 
 近年、社内文書のペーパーレス化を進む企業が増えてきました。
 
 物理的な紙の資料を保管するには、自社の管理スペースや外部倉庫の委託料だけでも月何百万単位のコストがかかります。
 
 しかも、物理的な資料を見るために取り出すには時間的なコストもかかります。
 
 そこで、資料そのものをデジタル化し、ストレージで管理することでこうしたコストの圧縮ができるだけでなく、過去の資料が検索し、利用できるデータとして活用することができるのです。
 また、災害時においても外部サーバーの利用により、自社に物理的な損害があってもいつでもデータの復旧が可能となるのです。
 

コロナ禍におけるテレワークでの対応

 しかし、これを行うためには、これまでハンコを使って管理してきた権限管理のフローを、データ上でどう行うのかという問題をクリアしなければなりません。
 これには、ハンコと同様の効果が得られるフローをシステム開発とともに検討し、準備しなければなりません。コロナ禍において、テレワークにすぐに対応できた企業とそうでない企業の違いは、まさにこの点なのです。
 多くの企業が、政府の要請期間において、一時的にテレワークを行っていましたが、これがひと段落すると元の状況に戻っています。
 普段からシステム化がされていない企業においては、メールのやり取りなどでこの承認作業を「しのいでいた」状況ですからそれもやむを得ないのではないでしょうか。

自社請求書のペーパーレス化

 さらに、最近では外部に発行する請求書自体をペーパーレスで行うケースも増えています。
 請求書の発行を行おうとすると、文書の作成費、郵送費といった費用が掛かります。
 
 たとえば、封筒1枚20円程度とすると、郵便料金84円なので、請求書1通送るのに100円程度のコストがかかります。仮に1000社に月1回発行しているとすると、送料だけで実に年間120万円ものコストがかかってしまうのです。
 
 こういった費用負担がペーパーレス化により一気になくなるだけでなく、請求データを直接会計データとして取り込むことにより、経理事務負担の削減にも役立ちます。
 
 また、こうした請求データを預金口座の入出金データと結びつけることによって、タイムリーに売掛金管理を行うことが可能となっているのです。

外部請求書のペーパーレス化

 また、外部企業からもらう請求書に関してもOCR機能の技術革新により、データとして読み取り、会計データに反映させることが可能です。
 このOCR読み取りにAIによる学習機能を付加したシステムを使えば帳簿作成に必要な情報を自動認識し、取り込むことが可能です。
 このように、ペーパーレス化により、単に発送費等の物理的なコストを抑えるだけでなく、事務作業の自動化により、作業時間コストの圧縮も可能としているのです。
 
 ただし、こうした外部資料のペーパーレス化には「電子帳簿保存法」というデータ保存の方法を定めた法律に準拠していなければなりません。そのため、まだ完全にペーパーレス化している企業は少ないですが、今後の法改正により、もっと使いやすいものになっていくでしょう。
 
 それでは、白紙の領収書を受け取り、受取人が自ら書き込むケースはどうでしょう?
 このケースは当然のことながら認められません。
 
 税務署は空領収(白紙の領収書に適当な金額を記載したもの)と疑わしいものについては、発行元の事業者に実際の支払額の照会をして、実態を調べます。その際、実態のないことが判明された場合には脱税行為とみなされます。
 仮にお店側から白紙のものを渡され、自分で記載するよう指示されたとしても、白紙の領収書に発行者以外の者が記載することは文書偽造に該当し、立派な犯罪行為となってしまうのです。
 誤解を招かないようにするためにも、必ずお店側に記載を求めて発行してもらいましょう。

ペーパーレス化のミライ、電子インボイス

 さらに、2023年に予定されている消費税のインボイス制度を見据え、ベンダー各社は「電子インボイス」の作成を進めています。
 
 これは単に紙をデータに置き換えるだけでなく、企業間での請求書のやり取りをデータで行うためインフラ作りから始めようというものです。
 
 これまで、各社ばらばらであった様式や内容の請求データの作成にルールを作り、データでのやりとりを標準化することで、「紙を読み取る」という作業すらも短縮されるだけでなく、データそのものをやり取りできることで、早く正確な情報をやり取りすることが可能となります。
 
 このように、文書のやり取りが「原則として」データのやり取りに置き換わるミライが私たちのすぐそばまで来ているのです。