連載コラム 経理の疑問にお答えします
決算間近、まだまだ間に合う中小企業の節税対策

決算間近、まだ間に合う中小企業の節税対策

作成日:2021-02-16
最終更新日:2023-02-24

 
多くの企業において、3月は決算期です。国税庁の統計資料によると、実に20%もの法人が3月決算法人に該当します。
年度末を迎え、最後のラストスパート、さまざまな決算対策が講じられているでしょう。
 
そこで、今回はこれからでもできる節税対策について見ていきましょう。
 

節税って?

 本題に入る前に、そもそも節税とはなんでしょう?

 

 節税とは、「法律の定める範囲内で税負担を減少させること」をいいます。法律の定める範囲内とは、どのようなことでしょうか?

 

 税金は、公共性があるのと同時に、景気や消費動向など生活に密着した側面もあることから、さまざまな税額控除などの特例が設けられています。
つまり、経費をうまく使うことで、支出以上の節税メリットが生じるケースがあるのです。

 

 なお、税負担の減少が、法律に規定のないものを原因とする場合には「脱税」という立派な犯罪になりますから注意が必要です。

 

固定資産の購入と減価償却費の計上

 経費を使えばその分、利益が少なくなって税金が少なくなる、誰もがこのように考えがちですが、そうなると「長期に渡って使える高額な資産を購入しよう」と考えるでしょう。

 

 しかし、そもそも長期に渡って使う固定資産は「減価償却」というルールに基づき、耐用年数の期間に応じて少しずつ費用計上しなければならないルールとなっていますので、期末にお金をたくさん使ってもP/L上のインパクトは大幅に削られてしまいます。

 

もうすぐ期末だから、新しい車を・・・なんて考えている人は注意が必要です。

 

利益にインパクトのある固定資産の買い方

 このように普通に買っても利益に対するインパクトの少ない固定資産ですが、買い方を少しだけ工夫すると節税の効果が出てきます。主に次の3つの要素を検討しましょう。

 

 ① 中古資産による節税
 ② 少額減価償却資産の購入
 ③ 投資促進税制の活用

 

① 中古資産による節税

  減価償却に用いる耐用年数とは新品の物が使用できる期間を示したものです。
  つまり、中古資産は購入時点ですでに耐用年数の一部を経過した資産なのです。
 減価償却費は耐用年数ごとに定められた「償却率」を資産の取得価額に掛けて計算するので、耐用年数を経過した資産は償却率も高くなります。

 

国税庁「減価償却資産の償却率表」

 

 これは、実際に計算に使う耐用年数表ですが、残りの償却期間が2年以内なら全額を費用化できます(年の中途の購入の場合には月割り按分が入ります)。

 

 たとえば、新車の耐用年数は5年ですが、4年落ちの中古車を購入すれば減価償却費は「購入代金×1.0×購入月から当期末までの月数/12」で計算されます。

 

 したがって、中古車でも購入代金が高額になるものを購入すると節税効果が高いと言えます。ただし、八百屋さんがフェラーリのスポーツカーを購入するといった、事業に使うとは言えない資産を購入しても経費と認められないので注意が必要です。

 

② 少額減価償却資産の購入

 減価償却が必要な資産は、本来取得価額が10万円以上のものですが、青色申告を行う中小企業者については、取得価額30万円未満の資産を全額経費として計上できます。

 

 そのため、30万円未満の商品をたくさん購入してもそのすべてが対象となります。ただし、300万円が上限になるので注意しましょう。また、パソコンとモニターなどのように、本来は一体として利用するものをばらして購入しても一体としての30万円未満にならないと適用できません。

 

③ 投資促進税制の活用

 青色申告書を提出する中小企業者が新品の機械などを取得した場合には、償却費を多く見積もることができる特別償却か7%又は20%の税率の税額控除を選択により受けることができます。

 

 該当する資産は、機械装置、ソフトウェアなどがあります。該当する資産の種類や適用できる金額を事前にチェックし、対象資産の購入計画があれば前倒して検討しましょう。

 

決算賞与の支給と計上の注意点

 会社が好成績な理由のひとつに従業員が頑張ってくれたからという理由が合上げられるでしょう。そこで、「決算賞与」という形で賞与の支給を考えるケースもあるでしょう。

 

 ところで、経費は会計処理においてはその事業年度内に支払いが完了しているものだけが計上できるわけではなく、期末時点において未払の経費も支払いが確定しているものについては、帰属する事業年度で経費計上するのが一般的です。

 

 しかし、賞与は税逃れとして支払いが決まっていないものを経費計上することも考えられることから、次の条件を満たしたものだけを法人税の計算上の経費とすることとしています。

 

ア 従業員ごとに、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
イ イの通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。
ウ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理(経費計上)をしていること。

 

雇用拡大促進税制と決算賞与

 
  また、賞与の支給により、従業員の年収が増える場合に利用できる制度が雇用拡大促進税制による税額控除です。

 

 雇用拡大促進税制は、税制優遇により、既存従業員のベースアップを促進する目的で作られた制度です。具体的には継続雇用者の賃金の上昇と給与の支給総額を基準としています。

 

 この賃金には決算賞与として計上した金額も含まれますので、決算賞与経費算入だけでなく、税額控除の適用もあるとダブルで節税メリットを受けることができるのです。

 

 従業員のモチベーションもアップすれば、節税以上の効果も期待できるでしょう。

 
決算期の節税に悩む企業オーナー

保険による節税はどうなの?

 「節税」というと保険を思い出す人も多いのではないでしょうか。これまで会社の決算対策として、「節税もの」といわれる保険が多数発売されていました。
 その仕組みは、経営者などが医療などの法律上全額経費計上できる保険に年払いなどで加入し、多額の保険料を期末に経費計上するというものです。

 

 こういった保険は「解約返戻金」が保障されていますので、これにより解約時まで課税を繰り延べることができるという方法です。
 
 しかし、これには国税庁からの「待った」がかかり、20194月の大幅な改正により、返礼率に応じて一部を資産計上しなければならないようルール替えが行われました。

 

 保険による節税は、商品を開発する保険会社と国税庁のルールのイタチごっこがこれまで繰り広げられてきましたが、これにより国税庁が保険による節税という考え方を完全に否定したこととなります。
 そのため、これまでのように「節税」というメリットはあまり享受できませんが、いざというときに備え、保険により資金をプールしておくことは資金計画としては有効な方法であるといえます。

 
 

 このように、経費の使い方を考えることで節税の効果が期待できます。しかし、節税とは、言い換えれば支出のタイミングを調整していることにすぎません
 本来、支出する予定があるものを前倒しで行う分には問題ありませんが、税金を払いたくないと考えるために余計な出費を行えば本末転倒です。必要な支出をうまく使って節税を行っていきましょう。