作成日:2020-08-18
最終更新日:2023-02-24
前回は失敗の原因を考えることの大切さについて述べたが、今回は失敗の原因を考えるときによくある最もよくないことについて説明しよう。
まずは以下のことについて考えて頂きたい。
ある晴れた日の昼下がり、営業担当の太郎さんへ得意先のA社から、注文とは異なる商品が届いたという連絡が入った。A社が注文したのは「H1」だが、実際に届いたのは「J1」だった。太郎さんは、すぐさま課長に報告。課長の承諾を得て、改めて「H1」をA社へ送るための処理を実施した。太郎さんがほっと一息つくのも束の間、課長から指示が飛ぶ。今回の失敗の原因と対策について報告書をまとめるように、とのこと。
指示を受けた太郎さんは、まずA社からの注文書や、自分が起票した発送指示書、商品に同梱した納品書の控えなど、今回の注文に関わる帳票について確認した。その結果、太郎さんが起票した発送指示書に誤りがあったことがわかった。A社からの注文書には間違いなく「H1」と記載されていたが、太郎さんが起票した発送指示書には「H1」ではなく「J1」と記載されていた。
どの時点で誤りが生じたのか突き止めた太郎さんは、続けて報告書の作成に取り掛かる。報告書の中で太郎さんは、今回の失敗の原因は「(自分が)発送指示書に『H1』ではなく『J1』を入力した」とした。また、対策については「次回から間違いないよう、気合を入れてダブルチェックします」と記した。
さて、ここで質問。
Q1:もし、あなたが太郎さんの上司だったら、太郎さんの報告書を見て、以下のどちらの対応を取りますか?
[1]「次回からもっと気合を入れて間違えないようにすること」と、強く念を押した上で報告書を受け取る。
[2]「原因の掘り下げがまだ足りない。それと、対策に書かれた内容が対策になっていない。同僚の次郎さんや花子さんと一緒に再度原因を検討して、再提出してほしい」と、報告書を差し戻す。
まさに[1]は、まずいパターンだ。気合では失敗はなくならない。前回述べたように、失敗した業務そのものには、必ず不完全な部分があると言っても過言ではない。「太郎さんが発送指示書に『H1』ではなく『J1』を入力した」は、失敗の行為そのものを指しているのであって、原因そのものではない。失敗の原因を探るのであれば、さらにもう一歩踏み込み、何が太郎さんの誤った行為につながったのか」を考える必要がある。「なぜ、太郎さんは発送指示書に『H1』ではなく『J1』を入力したのか?」を、だ。
では、ここで次の問いを考えて頂きたい。
さて、ここで質問。
Q1:なぜ太郎さんは「H1」ではなく、「J1」を記載したのか、以下の手順と前提条件を踏まえて、考えられる原因をいくつか挙げなさい。
<発送指示書の作成手順>
・Eメールで送られてきた注文書(PDF形式)を開く
・注文書のPDFを見て、社内システム上の発送指示書にデータを入力する
・作成した発送指示書の中身を確認して、「確定」ボタンを押下する
<前提条件>
・A社から送られてきた注文書には記載事項の誤りはなかった
・A社からの注文は今までほとんどが「J1」であり、「H1」の注文はこの時が初めてだった
・太郎さんは営業担当として5年間勤務している
・太郎さんが処理する注文件数は1日当たり平均5件である。
・太郎さんは注文書を受け取った日のうちに、必ず発送指示書を作成していた
・発送指示書は、顧客名以外はキーを一つひとつ入力して作成する
・太郎さんが発送指示書を作成していた時は、特段急ぎの用事等は入っていなかった
・A社の発送指示書を同じ日にA社以外の注文も受け取ったが、「H1」や「J1」の注文は入っていなかった
*「前提条件」とは、失敗の原因を考えるに当たり、踏まえなければならない事実を指す。詳細については次回以降に説明する。
なぜ太郎さんは「H1」ではなく「J1」を入力したのか、について考えられることは、
[1] 太郎さんはA社の注文書を見た時に「H1」を見ないまま、勝手に「J1」の注文が入ったと判断した(勝手な判断)
[2] 太郎さんはA社の注文書を見た時に、「H1」を「J1」と見間違えた(見間違い)
[3] 太郎さんはA社の注文書を見た時は「H1」と受け取ったが、入力する直前で入力作業を一時中断した。再開した時にはいつも通りの「J1」だと思い、「J1」を入力した(失念、勘違い)
[4] 太郎さんはA社の注文書を見た時は「H1」と受け取ったが、「H」キーではなく、隣の「J」キーを押下した(キーの押し間違い)
注)「なぜ太郎さんは『H1』ではなく『J1』を入力したのか」(入力した時点)ではなく、「なぜ『H1』ではなく『J1』が入力されていたのか」(発見された時点)の場合は、上記のほかに「誤ったキーを入力した後、太郎さんは(または、そのほかの人が)その誤りに気づかなかった」が加わる。
上記のうちのどれか分かれば、どのような改善をすればよいか見えてくる。
失敗の原因の掘り下げは、誤った行為を特定して終わりではなく、さらに一歩踏み込んで改善の着眼点が見えてくるところまで掘り下げなければならない。
原因を改善の着眼点まで掘り下げていくときの重要なポイントはいくつもあるが、詳細については次回以降に説明したい。