作成日:2020-10-20
最終更新日:2023-02-24
今回は失敗の原因を考えるときに注意すべき問題事象の捉え方の話だ。
まずは以下をお読みいただきたい。
ある晴れた日の昼下がり、営業担当の太郎さんは「料金変更のお知らせ」を顧客へ送るための顧客リストを作成していた。やり方は至って単純。すでにエクセルで作成されている全顧客リストから、対象顧客以外を選んで削除し、新たな顧客リストを作成するというもの。太郎さんは「料金変更のお知らせ」の配布対象の顧客リストを作成し終えると、次は宛名ラベルを印刷。印刷された宛名ラベルを「料金変更のお知らせ」を入れた封筒に貼り付け、それらを郵送用のボックスへ入れた。
1カ月後、複数の顧客から太郎さんへ料金変更について問い合わせの電話が入った。問い合わせは全て「なぜ、料金が変更になっているのか、理由を聞きたい」というものだった。調べてみたところ、問い合わせのあった顧客全てにおいて「料金変更のお知らせ」が届いていないことが判明。事態を上司に報告すると、またもや原因追究の指令が下された。
早速、太郎さんは例のごとく同僚の次郎さんと花子さんとともに原因追究に取り掛かる。今回の顛末を、太郎さんは次郎さんと花子さんに一通り話し終えると、続けて原因について切り出した。「複数の顧客に『料金変更のお知らせ』が届いていなかったのは、僕が間違ったリストを作成したからなんだ。それで、なぜ間違ったリストを作成してしまったかというと、僕が全顧客リストをちゃんと見ていないまま、対象顧客をうっかり削除しちゃったことが原因なんだ。だから、今後は元になるリストをちゃんと見た上で、リストを作成するという対策をまとめようと思う」
さて、ここで質問。
問:もし、あなたが次郎さんだったら、太郎さんの話を聞いて、以下のどちらの発言を選びますか。
[1]「それで、いいんじゃないの」と太郎さんの考えに同調する。
[2]「ちょっと待てよ。今回は複数の顧客で『料金変更のお知らせ』が届かなかったわけだよね。だとしたら、顧客それぞれで削除してしまった理由が異なるんじゃないかな。複数の顧客をひとくくりにして大雑把に考えるのではなく、顧客ごとに考えていくべきじゃないかな。でも、複数の顧客全てを一件一件原因追究するほどの時間は無いから、とりあえず複数の顧客の中から1社に絞って原因を考えたほうがいいんじゃないの?」
もうお分かりのように、この場合は②の発言が望ましい。
複数のものをひとくくりにすると、どうしても問題事象の捉え方が大雑把になる。大雑把な捉え方のまま、その原因を考えようとすると、どうしても大雑把な思考になる。結果、大雑把な答えや的外れのいい加減な答えが導き出されてしまう。
別の事例でも考えてみよう。たとえば、ある交差点で交通事故が多発していたとする。ここでよくやってしまうのは、問題事象の捉え方が大雑把なまま「なぜ、〇〇交差点では交通事故が多いのか」と切り出してしまうことだ。〇〇交差点での交通事故といっても、車と車、車と人、車と自転車という具合に、パターンは様々。たとえ、車と車の事故に絞ったとしても、さらに細かくパターンは分かれていく。
そこで、「〇〇交差点での交通事故」といった複数の事故をひとくくりにして捉えるのではなく、ある日発生した1件の交通事故だけに絞って、より具体的に原因を考えていく。1件に絞ることで、短時間でより的確な改善策を見出すことができる。実は、見た目は異なるが、原因は共通していることが少なくない。言い換えれば、1件の事故原因を探るだけで、ほかのパターンに共通する原因が見つかることがよくあるものだ。
話を今回の太郎さんの失敗の話に戻そう。今回の顧客リストの間違いの原因を探る場合には、まず複数ある顧客のうちから1社選ぶ。
次に、
- 元のリストの行の幅や文字の大きさはどのくらいか?
- 元のリストから対象外の顧客を選ぶとき、どんな動作で進めていくのか?
- その1社の会社名は?
- その会社はもとのリストの何番目に記載されていたのか?
といったことを確認したうえで、原因を考えていく。
こうすることで、
- ⇒ 会社名の見間違い
- ⇒ 会社名の勘違い
- ⇒ ポインターが対象顧客の行にうっかり触れた
といった原因をすみやかに見出すことができる。
1件の原因も分かっていないのに、複数の事象をひとくくりにして議論すると、私たちの見る目や考え方が散漫になってしまい、最終的には大雑把な結論や的外れでいい加減な答えが導き出されてしまう。何事もひとくくりで考えるような進め方は避け、まずは目の前の1件に絞って考えることから始めよう。きっと、短時間で優れた改善策が出てくるはずだ。