作成日:2020-12-24
最終更新日:2023-02-24
前回に続き、失敗の原因を探る時に注意すべき情報収集の話をしよう。原因を探るときに思いつきに任せて、考えられる原因をどんどん出してしまうケースをよく見かける。発想を膨らますことができるから良いと考えがちだが、原因でないところまで話が広がってしまい、かえって話を混乱させかねない。
テレビドラマの刑事たちは、事件が発生した現場において、金品は奪われていなかった、着衣に乱れはなかった、といった事実を、犯人を割り出すための前提として整理した上で、犯人を絞り込んでいる。同じように、どんな事故でも不良でも失敗でも、原因を探っていく際には、前提条件を整理した上で、原因を絞り込んでいくことが肝心だ。実際、失敗した担当者は新人なのか、ベテランなのか、いつもと同じ状況で失敗したのか、何か特別な事情があったのか、めったにないパターンの入力で失敗したのか、といったことが、原因を探る上での大前提になる。
多くの企業で原因追究がうまくいっていない理由の一つとして、原因追究で使用しているフォーマットに問題がある。多くの企業において原因追究で使用されているフォーマットを見ると、不良や災害等の失敗の発生内容の記述欄の下に、いきなり原因の記述欄がある。失敗の発生内容の記述の次に欲しいのは、失敗の原因を説明する上で踏まえておくべき前提条件だ。前提条件の記述がないまま、失敗の原因を説明されても、話の真偽が正直はっきりしない。今使っている原因追究のフォーマットがあるのであれば、「発生内容」のすぐ下に「問題発生の前提条件」の欄を追加し、前提条件をしっかり押さえた上で、しっかり原因を探れるようにしておくことをお勧めする。
では、具体的にどのような前提条件を押さえておく必要があるのか。業種に限らず、失敗の種類に限らず、筆者が原因を探る時に必ず押さえる4つの前提条件を、それが必要な理由とともに以下に並べる。ぜひ、参考にして頂きたい。
1.初回の失敗か、再発の失敗か
【必要な理由】
筆者の経験上、初回の失敗の原因はすぐに見つけやすい。一方、再発の失敗のほとんどは、当事者や関係者が気づきづらいところに原因が潜んでいるから厄介だ。気づきづらいところに潜んだ原因を見つけるためには、これまで以上に細部の情報が必要になる。
分かりやすく言うと、細部とは手順をもっと細かくした動作レベルのことを指す。
例えば、手順の中の「伝票の内容をPCに入力する」を動作に分解すると、
- 1枚の伝票をPCの左わきに置く
- 伝票の中の〇〇を見る
- PCの××を見る
- ポインターで××をクリックする
- 〇〇の数字を打ち込む
になる。筆者の場合、失敗の原因を探るにあたって細かい情報が必要か否かを判断するために、情報収集の最初に初回の失敗か再発なのかをつかんでおく。
2.失敗に係った全員の経験値と、失敗した作業の作業頻度
【必要な理由】
原因追究の前提として、失敗に係った当事者・関係者全員の、当該作業における経験値が必要な理由は、言うまでないだろう。ただ、ほとんどの原因追究で抜けている前提条件は、当該作業の実施頻度だ。
当事者の失敗した作業における経験は10年だったとしても、毎日実施している作業と、毎年1回しか実施していない作業では、スキルレベルが全く異なる。スキルレベルによって失敗の原因が異なることも少なくないことから、前提条件として作業頻度を押さえることを忘れてはならない。
3.前回までとの「違い」や、同じ仕事をする人との「違い」
【必要な理由】
前回も前々回も前前前回も当該作業は実施されていて、その時は失敗しなかったとするならば、それを踏まえて原因を探っていかなければならない。実は、多くの企業で、原因を探る前に整理する情報として、これが一番抜けている。もし、前回までと失敗した今回とで「違い」があれば、それを踏まえて原因を探らなければならない。
例えば、いつもは昼間に実施する作業だが、顧客の都合により、今回は夜の作業になってしまい、作業の途中で失敗してしまった場合は、夜の作業を前提として原因を考えていく。決して、夜の作業だから失敗したんだと安易に考えて、今後夜の作業を止めるといった短絡的な方向で考えるのではなく(改善策が出るまでの一時的な措置として考えるのは良いだろうが)、今後はたとえ夜の作業になったとしても失敗しないような改善策を考えていかなければならない。
押さえておきたい「違い」は、まだある。失敗した作業を実施している人がほかにいるのであれば、その人たちと失敗した人とのやり方の違いだ。作業手順書等に記載されていない細かな点、例えば、本作業に取り掛かる前のルーチンや、チェックを入れる際の線の引き方など、人によって異なることが少なくない。失敗しない人は自分自身でそれなりに工夫している。失敗した人とほかの人のやり方の違いをつかむことで、失敗しない人のやり方を採用するといった改善策を導き出すことができる。
4.失敗に至った時系列の情報
【必要な理由】
失敗に至った時系列の情報が必要なことは言うまでもない。ただし、数ある時系列の情報で最も押さえておくべき事実は、明らかに原因ではない、問題ではないという事実である。刑事ドラマの刑事さながらに、顧客から受け取った書類に誤りはなかった、メールの指示内容に誤りはなかった、といった問題の無いところを重点的に押さえていく。そして、徐々に原因を探す範囲を絞り込んでいく。
問題ないという事実を押さえることにより、問題とすべきでないところで議論が白熱するといった無意味な議論の防止になるとともに、短時間で的確に原因を導くことが可能になる。もちろん、問題ないところだけでなく、誤りがあったという事実を押さえておくことは構わない。ここで最も注意すべきは、問題があるのに問題なしと判断してしまうことだ。決して、現物を見ないまま勝手に問題ないと判断したり、大雑把な見方で問題なしと判断してはならない。