失敗は不完全さのシグナル【6】
原因追究の目的をはっきりさせると、情報収集がやりやすくなる

業務改善コラム

作成日:2021-02-03

 人が失敗した場合の情報収集は、もっぱら当事者や関係者への聞き取りがメインになる。実は、これがなかなかスムーズにいかない。失敗した当事者や関係者は、自責の念で頭がいっぱいになり、失敗した時の話を思い出そうとしてもなかなか思い出せない。ヒヤリングする人たちも失敗した当事者を思いやってか、ヒヤリングが思うように進まない。そうなると、つい尋問のような口調になる人も現れる。まるでテレビドラマに登場してくる強引な刑事のようだ。「一体、この時点で何を見ていたんだ!」こんな雰囲気の中では抜け漏れの無い情報収集ができるはずもない。
 
 では、一体どうすれば当事者、関係者が思い出しやすく、情報を出しやすい雰囲気を作れるのか。答えは、原因追究は何のためにやっているのか、原因追究に関わる全員が腹落ちする目的を掲げることだ。「そんなこと、いちいち確認する必要ないよ。だって、原因追究の目的は再発防止策を出すことなんだから」と、多くの人は思うかもしれない。だが、「再発防止策を出す」を掲げても、いったい何を二度と発生させないようにしたいのかはっきりしない。大事なことは、誰もが分かりやすく腹落ちする目的を掲げること。しかも、その目的を文で書くことが重要だ。
 

  <事象>                 <原因追究の目的>
 
「あるミスがあった」          → 「~ミスを無くす」
 
「コンピュータ・ウィルスが入ってきた」 → 「コンピュータ・ウィルスの侵入を防止する」
 
「システムが停止した」         → 「システムが停止しないようにする」
 

 上記の文は全て、「次回からは」といった前置きがつく表現だ。原因追究の対象となった失敗はすでに過去のこと。起きてしまったことは、もう取り返しがきかない。失敗を起こしてしまった私たちに求められることは、ただ一つ。次は成功させること。次に成功させるためには、どうすればよいか改善策を導き出すのが原因追究の目的だ。失敗の責任を取ることと原因追究は、分けて取り組まなければならない。
 
 では、目的を文で書いただけで場の雰囲気ががらりと変わるかというと、実はそう甘くはない。「再発防止策」イコール「改善策」だが、「再発防止策」を「改善策」として考えている人はそう多くないからだ。失敗した当事者、関係者に求められているのは、次の成功に向けて関わった全員分の改善策を出すこと。
 
 そこで、原因追究に関わる全員に、全員分の改善策を出すことを意識してもらうために、どの時点からどの時点までの間で改善するのか、改善範囲を掲げる。もし、いきさつがはっきりしないと改善範囲を設定しにくい場合は、ひとまず仕事を請け負うところから失敗が発見されたところまでを改善範囲としておけばよい。また、日常実施している作業や業務で失敗した場合は、該当する名称、例えば「会計業務」「出荷作業」といった名称を掲げる。その場合、該当する作業や業務に関わる全ての帳票類、システム、進め方、役割分担、手順などが改善対象になる。
 

  <改善範囲(対象)>
 
・~から~まで 例:受注から出荷まで
 
・~作業    例:受注処理作業
 
・~業務    例:決算業務
 
・~管理    例:在庫管理
 

 どの時点からどの時点までの範囲を原因追究し改善策を出すのか、その範囲を決めるときに注意しなければならないことがある。実際の失敗でよくあることは、仕事の依頼を受けた時点で、すでに何らかの問題があり、その状態のまま実作業や作業の最終チェックに移行してしまったというものだ。
 
 例えば、今までの依頼とは仕様が異なるにもかかわらず、それに気づかず依頼を受けてしまい、そのまま実作業を担当する人に指示を出してしまうケースなどが該当する。このようなケースの場合、実作業のところだけを原因追究しても本質的な改善にはならない。本質的な改善策を出すためにも、改善範囲(=ヒヤリングの範囲)はできるだけ広くとっておいた方が良い。
 
 このように、ヒヤリングする前に、まるで道標を設置するがごとく、目的を文で書くとともに改善範囲(対象)をはっきりさせることで、目的を見失わないようにすることが肝心だ。道標を常に意識して、全員が原因追究に取り組むことで、無意味な議論や原因追究の場での個人攻撃の防止につなげる。また、はっきりした目的を掲げることで、短時間に的確な答えを導くことも可能になる。

原因追究の目的をはっきりさせる