失敗は不完全さのシグナル【9】
「確認しなかった」だから確認ルール化は愚策

業務改善コラム

作成日:2021-02-24

 今日もどこからともなく失敗の会話が聞こえてくる。


 太郎さんにとって、今日は新規顧客の目前で自社商品をプレゼンする日。
 
 会議室に案内された太郎さんは、プレゼンの相手を待っている間、プレゼンで使用するものをカバンから取り出し、テーブルの上に並べていく。
 
「自社の紹介パンフレットに、商品カタログだろ。あれっ、商品サンプルはどこだ?」
 
 カバンの奥までくまなく探ったが、商品サンプルが見当たらない。
 
「しまった!忘れた」
 
 商品サンプルを持参し忘れたことが分かっても、今さらどうすることもできない。
 
 もうすぐ顧客の担当者が部屋に入ってきてしまう。
 
「しかたがない。この場は商品サンプルが無いままプレゼンを切り抜けるとするか。それにしても、会社を出る前に、プレゼン資料をよく確認しておけばよかったなあ」

 
プレゼンでサンプルを忘れたケース

 

 太郎さんと同じようなことを、あなたも今までに経験したことがあるはずだ。
 あなたが太郎さんだったら、次回に向けてどんな改善策を導くだろうか。
 
 読者の中には、

「確認ルール」を作って次回からはしっかり確認して失敗を無くす

といった考えで改善策を出そうとしてはいないだろうか。
 
 実は、そんな浅はかな考えが多くの企業でまかり通っている。

 
 

失敗の実態をしっかりつかむ

 人為ミスの報告書の多くには「○○を確認しなかった」が原因だと記載されている。報告書の中身を読んでいくと、次のような論旨が記述されていることが少なくない。

○○を確認しなかったのは○○を確認ルールが無かったからであり、「○○を確認する」ルールを定め、次回からはしっかり○○を確認していくことでミスを無くす

 
 報告書を作成した人やそれを承認した人たちは、ルール化すれば全員が確実に確認できる、とでも思っているのだろうか。そうだとするならば、あまりにも愚かだ。
 
 よく考えてほしい。
 
 本人がすでに分かりきっていることまでルール化していくと、ルールばっかり増えて、やがて私たちの作業はルールでがんじがらめになり、柔軟性がどんどん失われていく。
 しまいにはルールを取るか重要性を取るかといった事態になりかねない。
 

 

 上記の太郎さんの失敗のケースで、太郎さんは今まで数多くの顧客に対してプレゼンしており、今までは商品サンプルをちゃんと持参していたとしよう。
 そうだとすると、太郎さんはプレゼンで商品サンプルが必要なことはすでに分かっていたということになる。
 
 ということは、今回の失敗の原因は「確認しなかった」が原因ではなく、「商品サンプルをたまたま忘れたあるいは「資料を準備していた時点で、商品サンプルを用意していないことにたまたま気づかなかったとなる。
 
 「忘れた」「気づかなかった」であれば、それに対する改善策を考えればよいことになる。
 
 顧客へのプレゼンにおいて、商品サンプルが必要だと分かっている人に対して、確認ルールを定めるという対策はあまりにも的外れな対策であり、愚策以外の何物でもない。
 
 私たちは日常生活の中で、「たまたま忘れた」あるいは「たまたま気づかなかった」を度々経験する。そんな失敗の時、私たちは改めて確認ルールを定めるようなことはしない。
 
 次回失敗しないように、様々な工夫を施すはずだ。
 
 業務の失敗も同じ。
 
 日常生活の中で実施するような改善策を出せばよい。
 
 今回の太郎さんの失敗の場合は、商品のプレゼンで使うものをパッケージ化してキャビネットに保管しておくとか、商品のプレゼンで使うものは同じ箱の中に入れておくといった改善策を出せばよい。

 
 

「確認しなかった」には、「全て」「一部」「いつも」「たまたま」がある

 

 前段では確認するルールが無かった時の失敗について述べたが、次は「確認する」というルールがあるにもかかわらず、「確認しなかった」場合の考え方について以下に述べる。
 

「(ルールがあるにもかかわらず)確認しなかった」には様々なタイプがあることを忘れてはならない。「全部」なのか、「一部」なのか、「いつも」なのか、「今回たまたま」なのか。

 
いずれかで対策も変わる。しかも、それぞれの組み合わせになる。
 

・いつも全部確認していなかった
・たまたま全部確認していなかった
・いつも一部しか確認していなかった
・たまたま一部しか確認していなかった

 
そもそも「いつも確認していなかった」のは、なぜか。
 
 確認ルールを教えてもらっていなかったといった低次元の話は別として、「いつも確認していなかった」理由の多くは、確認するのが面倒くさいと感じているからだ。
 
 私たちは、確認という行為にかける負荷(エネルギー)に対して、得られる価値が低いと思った時に面倒だと考える。
 
 面倒だと考えている場合は、確認にともなう負荷を軽減しない限り、誰も実施しようとしない。
 
 たとえ次回から確認したとしても長続きしない。
 
 一方、「たまたま確認していなかった」については、ベテランにありがちな失敗だ。
 一人で作業をしていて「たまたま確認しなかった」の場合、基本的にやり方を変えない限り「たまたま確認しなかった」は決して無くならない
 人が確認するのではなく、チェックを自動化するといった方法に切り変える。
 あるいは、確認しないと次のステップに入れないようにする。後者は、まさにホテルの予約サイトや航空券の予約サイトで工夫されているように、チェックを入力しないと次の画面に移動しない、といった工夫が望まれる。
 
 一方、複数の人が関わっていて「たまたま確認しなかった」場合は、責任の所在がはっきりしていないことから、誰も確認していないというケースが少なくない。
 
 この場合は、次回からは予め役割分担や責任の所在をはっきりさせた上で、作業を進めていくことが求められる。複数の人数による突発的な対応や非定常作業の場合はなおさらだ。
 
 私たちの職場は今後ますます人手不足と高齢化が進んでいく。変化に対応していくためにも安易なルール化だけは避けなければならない。