失敗は不完全さのシグナル【11】
失敗転じて生産性を上げる

失敗転じて生産性をあげる

作成日:2021-03-10

 多くの企業において、人が失敗すると再教育やチェックリスト作成といった対策が目立つ。
 これら対策を否定するわけではないが、再教育やチェックリストでは、仕事のやり方は一向に変わらず、仕事の負荷が増すばかりだ。
 また、負荷が増すだけではなく、チェック項目を増やしていくと、チェック自体がいい加減なものになりかねない結果、ミスの再発を招いてしまう
 今までのやり方に固執するのを止めて、新人だから失敗するという考え方も捨てて、どんな時でもどんな人でも失敗しないようにするという考えに改め、仕事のやり方そのものを変えていくといった方向に舵を切ることが大事だ。


役割分担を変える

 

 今では多くのレストランや居酒屋で、タッチパネルによる注文が一般的だ。タッチパネル方式の注文システムは主に人手不足に対応したもの。けれども、見方を変えれば、店員が注文を受けるときのミスを無くすという画期的なやり方でもある。これは、元来店員が注文を聞き取り、厨房に伝えていた役割を顧客に持たせた、ある意味役割分担を変えた画期的な方式だとも言える。

 

 タッチパネル方式にする前は、店員の注文を取るのが遅かったり、注文の抜けや聞き間違いがあったり、注文伝票を厨房に渡し忘れたり、といったことがあった。タッチパネルを使うことで、顧客側も店員を待つことなく、注文が決まったらすぐに注文することができる。注文を取ってもらうために店員を待っていることもないし、注文の間違いもない(顧客が誤ってボタンを触ってしまう誤りは発生するが)。厨房側も店員が注文伝票を持ってくるのを待つことなく、瞬時に正確なオーダーを把握できる。結果、生産性も上がるというわけだ。 

 

 実は、昔から顧客と店側の役割をうまく分けて運営している飲食店がある。そこの店では顧客自身が鉛筆等で注文伝票に注文を書いて店員に渡すという方式を取っている。コストをかけずに注文の間違いを無くすための好事例である。
 

責任範囲をはっきりさせる

 

 電柱の設置や移動の場合、最初に電柱を設置する土地の地権者に、設計班が許可を取り、工事期限を決め、その上で図面作成に入る。図面が仕上がったら、設計班は工事班に図面を渡す。図面を渡された工事班はすでに決められた工事期限までに工事を終えなければならない。実は、これがなかなかスムーズに遂行されない。設計班が地権者の許可を取り、工事期限を決めたにも関わらず、設計班から図面がなかなか仕上がってこないということが度々発生。

 

 図面作成が遅れると、地権者と取り決めた工事期限までの日数に余裕がなくなっていく。工事は屋外作業なので、安全が確保できる天気の良い日に工事を実行したいところだ。だが、工事期限までの余裕がなくなると、安全確保にリスクが伴う悪天候にもかかわらず、工事を決行しなければならなくなる。時には、工事する順番の組み換えが必要になってしまう。実は、工事中の労働災害も度々発生していた。

 

 そこで、設計班が工事期限を地権者と決めた後、図面完了期限を決めるが、もし期限をオーバーしたら、設計班の減点とし、減点状況をグラフにして壁に張り出した。設計班の責任を明確にするためだった。その後、設計担当者は自分の仕事のやり方を改めるだけでなく、管理職も11件の設計の進捗をチェックし、必要に応じて指導するという、当たり前のことができるようになった。それにより、グラフを張り出してから3カ月後には設計完了日をオーバーしてしまうようなことはほとんど無くなり、工事班も日程に余裕がある中で安全を確保して工事を実施できるようになった。

 

 レイアウトを変える

 

 多くの企業では、他の部署から持ち込まれた未処理の重要書類が置かれる場所が決まっており、そこには箱が常設されている。ある企業では、箱に入れられた未処理の重要書類は、職場の誰かが気づいて、該当する担当者に手渡して処理を促すといったやり方だった。そんな中、ある日急ぎの重要書類が置き場におかれていることに誰も気づかず、翌朝気づいて大騒ぎになったことがあった。

 

 上記の失敗を踏まえて当該職場では、未処理の重要書類を入れる箱を、職場の人たちが頻繁に通る位置に変えるだけでなく、重要書類を処理する頻度の多い担当者や管理職を、箱を設置した通路の近くに設置するといった机のレイアウトまで変更した。

 

 これにより、重要書類を処理する担当者はほかの人たちに頼ることなく、未処理の重要書類が届いたことにすぐに気づくことができ、業務全体が遅滞なくスムーズに流れるようになった。

 

 上記は机や通路のレイアウトを変更した事例だが、テレワークが多くなってきた今では、机の配置といったハード面の改善というよりも、クラウド上のホルダーの配置やファイルの配置といったソフト面の改善が欠かせない。以下には、様々なレイアウトを変更して、間違いを無くした例を紹介する。

 

1つ目

 企業で使用されている書式の中には、最重要事項を記述する必要があるのだが、めったに記述することが無いことから最下段の隅の「備考欄」に記述することになっている書式も少なくない。よくある失敗は、隅に記載された最重要事項を見逃して、誤った処理をしてしまうケースだ。この場合は「備考欄」を改め、「注意すべき条件」といった表示にするとともに、書式の目立つところ、例えば一番先頭に配置換えするといったレイアウト変更が求められる。

 

2つ目

 工場の品質検査では数々の検査を行うが、検査の順序と書式に記載する位置が異なっており(例えば、検査の順番と同じように1,2,3,4の順に記入するのではなく、1,2,4,3というように、記載する位置が異なることを指す)検査した数値をうっかり違う個所に記載してしまうという例が少なくない。実は、やり方を教わったばかりの新人がこの罠にはまって失敗してしまうケースが多い。このケースの場合は、検査の順序と書式に記載する位置を同じにすることで、間違いを無くすことができる。担当者も順序に気を使うことなく、検査作業に没頭できる。

 

 このように、失敗に対して教育やチェックリスト作成で済ますのではなく、失敗をきっかけに改善を仕掛けていくことで、現時点よりもさらに、安全で、楽に、正確に、早く仕事が遂行されるよう生産性の向上も同時に狙うことが重要だ。