失敗は不完全さのシグナル【12】最終回
目指すは、どんな時でも誰がやっても確実にできること

目指すはどんな時でも誰がやっても確実にできること

作成日:2021-03-17

今回は、よくある失敗原因のすり替えについて話をしよう。
 


 

  ある日雨が降っている中、広大な事業所の敷地内で交通事故が発生した。後日、発生した事故の原因について、当事者も含めて複数人で議論することになった。実際には警察が事故原因の調査をするが、自分たちで事故原因を検討したとする。そんな中、メンバーの一人からこんな意見が出てきた。

 

「車が滑ったのは雨が降っていたから、なんじゃないか」

 

 これはまさに、雨さえ降っていなければ事故は起きなかったと言っているようなもの。雨天にもかかわらず危険な仕事を実行したのであれば、このような意見も取り入れる必要があるが、嵐でもない限り雨天で車を運転することはいたって普通のこと。

 

 さらに、この意見を真に受けて、
「だったら、なぜ雨が降っている中で車を運転したんだ?」
といった、検討違いの方向に話をもっていこうとする人も出てくることも少なくない。

 

 そもそも「雨が降っていた」というのは、事故が発生したときに、たまたま雨が降っていたという「状況」の話である。言い換えれば、事故原因を追究する際に踏まえておかなければならない前提条件そのものだ。(前提条件については、当連載の第5回を参照頂きたい)「雨が降っていた」ことが「問題」ではなく、「雨が降っているにもかかわらず、急ブレーキを踏んだ」といったことが「問題」である。

 

 このように、失敗の原因を探るときによくあるのは、発生したときの「状況」(前提条件)を「問題」にすり替えてしまうまずいケースだ

 

「状況」(前提条件)なのか「問題」なのか、しっかり区別する

 

 通常1か月の納期で請け負うところを、今回は1週間の納期でやってくれと顧客から要望された。なんとかやりくりして納期通りに間に合わせたところまでは良かった。だが、顧客に提出後にすぐにトラブルが発生した。

 

 このような失敗の原因を議論している時に、よく出てくる意見は「納期が短縮されたからトラブルが発生したんだ」といったものだ。まさに、納期短縮を原因とすることで自分たちのミスを棚上げにしようとしているのではないかと勘繰りたくなるような意見だ。

 

 さらにまずいのは、その意見を真に受けて「今後は納期短縮には応じない」と言う人も出てくることだ。
 失敗した側の言い訳したい気持ちは十分理解できる。だが、そんなことをやっていたら、顧客満足はどんどん遠ざかっていく。
 「それを言っちゃあ、おしまいよ」と、昔の役者の声が背後から聞こえてきそうだ。実はこのような類の話はよくある。

 

 同じく年度末の仕事のミスの原因を検討している時も、年度末で仕事が忙しく人手が足りなかった、よって次年度からは人を増やすといった短絡的な結論を言い出す人がいる。
 今までも年度末は忙しかったはずだが、今までは乗り切ってきた。人手が足りないことが原因だとするならば、年度末の忙しさに対して管理職が今まで何も改善してこなかったことが問題だと言わざるを得ない。

 

 前回までの年度末と仕事量に大きな違いはないのであれば、忙しさは失敗の原因ではない。忙しさの中に前回までとのわずかな違いがあり、その違いに対応できず(気づかず)失敗したということが考えられる。この場合は、前回までとの違いを踏まえて改善策を導かなければならない。

 状況を踏まえて改善策を出す

 改善策を出すに当たり、失敗した時の状況をしっかり踏まえて改善策を出す必要がある。上記の納期短縮された案件の失敗の場合には、次からはたとえ納期が短縮されたとしても失敗しないようにするための改善策を導かなければならない。

 

 近年企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化する。変化に対応すべく、新しい案件にもどんどん取り組まざるを得なくなってきている。そんな中、部署としても初めての案件で、それに関わる人たちも初めてで失敗した、といったケースが多くの企業で発生している。初めてだから、ということで大目に見なければならない部分もある。ただ、看過できないのは、そういった事例の原因追究の結果として出された改善策だ。

 

 本来、初めてという状況で発生したのであれば、これから引き受ける初めての案件にも対応できる改善策を出すべきだ。にもかかわらず、手順書の作成やチェックリストの作成などが掲げられている報告書が後を絶たない。報告書に書かれた改善策通りに手順書やチェックリストを作ったとしても、それらを作る人も初めての経験だ。不完全なものが出来上がるのは目に見えている。それに、今回作った手順書やチェックリストが次の初めての案件に通用するとは限らない。むしろ、次は通用しないだろうと考えるべきだ。

 

 初めての案件で、初めての人たちが実施する場合には、各フェーズで失敗が発生するかもしれないといった前提で、それ相応の進め方や役割分担、体制で対応していく必要がある。こういった改善策を考えるのは、現場の担当者ではなく、管理職の仕事だ。

 

どんな時でも誰がやっても確実にできるようにする

 改善という言葉を知らない人はいない。だが、「失敗に対する改善の目指す方向は何?」と問われて的確に答えられる人はどれだけいるだろうか
 
 人の失敗に対する改善の目指す方向は、どんな時でも誰がやっても確実にできるようにすることだ。

 

 同じような仕事のように見えていても様々なパターンが目の前に現れる。同時に、関わる人たちも日々変わる。私たちに求められるのは、たとえどんなパターンが目の前に現れても、どんな人たちが関わっても確実に遂行できるように、日々改善することだ。
 
 管理職は管理職なりに、現場の担当者は担当者なりに、自分の役割と責任を自覚して、失敗をきっかけに、より良いやり方にかえていかなければならない。そのことが、会社全体、そして自分自身の進化につながっていく。