作成日:2020-08-24
2022年1月1日施行の電子帳簿保存法に対応した、
2022年版『電子帳簿保存法』改正のポイント解説!を公開しています。
まず電子帳簿保存法について知ろう!
日常業務の中で会社にどんどんたまっていく紙の書類。特に経理関係では、重要書類となる決算書や注文書、契約書、領収書、見積書、請求書などをはじめとした財務関連書類は、原則「紙での保存」が求められていました。
このため、数十人規模の会社でも経理関係の書類だけで大きな書類ラックが並ぶ、という光景もよく見られます。しかしこうした書類は、税務調査などの際に必要となるということは理解できますが、長期にわたり紙で保存することは、さまざまな負担や無駄を生み出します。
例えばスペースの無駄。いざ参照が必要になった際に書類を探す時間のロス。そもそも書類を紙に出力するためのコストなど、本来、会社の生産性とは全くかかわりない「紙での保存」のおかげで、多くのデメリットが発生しているわけです。
そのような現状を変えるために運用が始まったのが電子帳簿保存法です。
1998年に施行され、それまで紙による保存が絶対であった国税関係
の資料について、電子データによる保存が認められるようになりました。
ただ、本当にデータで保存するとなると、一般企業では非常に制約が多く、法律が施行されても、なかなか電子化は進みませんでした。
しかしその後、仕事の実情に合わせ、段階的に要件が緩和され、電子化は少しずつ身近で使いやすいものとなってきました。
特に、紙の書類をスキャンした電子データによる保存が認められるようになったのは大きな緩和でした。これによって相手先から紙で発行された請求書についても、自社で電子的に保存することができるようになりました。
さらに、以前はスキャンの形で保存できる領収書等の金額についても、3万円以下、つまり少額のもののみというルールがあったのですが、これも撤廃されました。
また世の中の実情に合わせ、領収書などをスマホで写真撮影したデータでも許可されるようになるなど、制度としての使い勝手、導入の容易さはさらに向上しています。
こうした緩和の中、私たちの会社でも、
- 1)税務署に電子化での書類保存を申請する
- 2)タイムスタンプ(このあと詳細に解説いたします)による電子データの保存
という2つの条件をクリアすれば、大量の書類を電子データの形で保存することができるようになりました。
どんな書類が対象となっているのか
では、電子帳簿保存法はどんな書類が対象で、どのような保存方法があるのでしょうか。
整理してみると、私たちの会社の業務では、大きく4つの書類の形態が存在し、それぞれ2つの保存方法が考えられます。
- 1)自社で作成した(請求書などの)書類を、電子的な方法で相手に渡す⇒「電磁的記録による保存」
- 2)自社で作成した(請求書などの)書類を、紙に印刷し相手に渡す⇒「スキャン保存」
- 3)他社が作成した(請求書などの)書類を、電子的な方法で自社がもらう⇒「電磁的記録による保存」
- 4)他社が作成した(請求書などの)書類を、紙に印刷した形で自社がもらう⇒「スキャン保存」
つまり、データでもらった書類をデータのまま保存する「電磁的記録による保存」と、紙でもらった書類をスキャンしてデータ化し保存する「スキャン保存」の2種類があります。
さて、会社の業務の中で発生する書類ですが、それぞれ次のような保存方法が認められていいます。代表的な例は以下の通りです。
(帳簿&決算関係書類)
仕訳帳 現金出納帳 売上帳 売掛金元帳 仕入帳 買掛金元帳 固定資産台帳 棚卸表 貸借対照表 損益計算書 等
- ⇒「電磁的記録による保存」が認められています。
(その他の書類)
請求書 契約書 領収書 預り証 借用証書 預金通帳 小切手 約束手形 見積書 注文書 検収書 申込書 等
- ⇒「電磁的記録による保存」と「スキャン保存」の両方が認められています。
電子化は期日以内に実行しなければなりません
書類の電子化は、年度末に一気に行う、といったことは許されていません。
次に定められたような期日内に行うことが決められています。
早期入力方式 | 1週間以内 ⇒おおむね7営業日以内 |
業務処理サイクル方式 | 最長1ヵ月と7日以内⇒最長2ヵ月と7営業日以内 |
特に速やかに行う方式 | 3日以内⇒おおむね3営業日以内 |
ここでは従来の期日と、今回2019年の法改正で決められた緩和された期日を併記してみました。これまでは休日も含めた期間だったため、週末などを挟んだ場合、電子化の対応が難しいケースも考えられました。これが営業日による計算に変更されたため、期間的に多少ハードルが下がりました。
また「業務処理サイクル方式」に関しては、期間自体が大幅に長くなっています。
ここで、用語についていくつかポイントを解説させていただきます。
まず気をつけなければならないのがここで登場する「入力」の意味です。
私たちが日常使っている「入力」とは少々意味が異なります。
ここでいう「入力」とは、スキャナで読み取った後、その書類にタイムスタンプを付加することまでが含まれています。つまり、
「スキャン」+「タイムスタンプ」
が、スキャナ保存における「入力」です。
「早期入力方式」とは、書類を受け取ってからおおむね7営業日以内に電子化するやり方です。
「業務サイクル方式」とは、一般的な経理業務のスケジュールである「月締め」に則ったやり方です。
毎月、「月締め」で書類を整理し帳簿を締めるタイミングから1週間以内に電子化します。
重要書類とされている領収書などはこの2つの方法、「早期入力方式」「業務処理サイクル方式」のみ採用が可能です。
上記の2つの方式は、基本的に領収書等を受領した本人ではなく、他の人間(経理担当者など)が行います。
これに対し最後の「特に速やかに行う方式」はオプション的に申請する方式で、受領者本人、つまり領収書をもらった本人が「入力」を行うものです。
ただ、あくまで最初の2つ、「早期入力方式」「業務処理サイクル方式」への付加条件、どちらかの方法を自分で代わりとして行ったという宣言ですので、いずれかの方式(もしくは両方)かを選択した上で、「領収書の受領者本人が電子化することがある場合」は、このオプションにチェックを入れることで、申請することが可能になります。これは、「おおむね3営業日以内」におこなう必要があります。
電子化に必ず必要なタイムスタンプ
「タイムスタンプ」とは?
さて、この説明の中で何度が登場している「タイムスタンプ」という耳慣れない言葉、これはどのようなものなのでしょう。少々長くなりますが、今回の書類の電子化に際し、最も重要な事柄の一つですので、丁寧に解説させていただこうと思います。
電子データは、コピーが容易です。そのため電子化された文書には、たった一枚存在する紙の原紙とは異なり、データの改ざんなどのリスクがつきまといます。タイムスタンプは、こうした電子文書の信頼性、存在価値が問われる中で生まれた仕組みです。
タイムスタンプとは、簡単に言えば電子化した文書の「原本性」を証明するために考案されたマークです。
電子データと時刻との組み合わせになっているため、タイムスタンプを付与されることで、その電子文書は「スタンプが付与された時刻から変更を受けていない」ことを証明されたことになります。
タイムスタンプは、総務省の指針に基づいて一般財団法人日本データ通信協会が認定した第三者機関の事業者に提供されています。
この認定事業者のタイムスタンプのサービスを利用するには、利用料が発生します。
ただ、タイムスタンプ機能がある複合機や会計システムでは、タイムスタンプの利用料を含んだ料金となっていることもありますので確認してみましょう。また多くの複合機で、タイムスタンプ機能をわずかな費用で後から付加することも可能です。
実はタイムスタンプ自体は15年以上前から存在しています。周知が足りていないだけで、すでに皆さんがお使いのソフトウェア、ハードウェアにも機能が備わっている場合がありますので、一度メーカーに確認してみてはいかがでしょう。
なぜ今まで電子化はあまり進んでいなかったのか?
実は、かなり以前から、条件さえそろえれば財務手続きにおいて完全なペーパーレス化が認められる状況になっており、クラウド上の会計ソフトなどを使えば、請求書や領収書もデータ化して、ほぼ自動的に会計、財務処理が可能な状況にはなっていました。
しかし2019年の法改正前は、それでも税務調査のため、原則として紙で保存する義務があり、「だったらこれまでの方法でも一緒」という印象もあり、電子化を導入するうえで障壁となっていました。
しかし2019年10月の消費税率改定による8%と10%の2重の税率、将来のインボイス制度の導入などで、経理にまつわる作業はさらに煩雑になってくることが予想されます。こうした状況のなか、電子化は早急に普及させなければならない大切な案件となっています。そのため、2019年、さらに電子化を進めていくためのに、いくつかの法改正が再び行われました。
上記の期限に関する条項もその一つ。これ以外の変更点のご説明を(2)で行いますが、今回は最後に、電子化のメリット、デメリットについて考えてみたいと思います。
電子帳簿保存法を導入するメリット
書類を電子化して保存すると、経理業務の効率化が大きく進むといわれています。
具体的には、次のようなメリットが考えられます。
① 業務の効率化
書類が電子化されると、ファイリングや書類整理などの手作業が不要となります。また情報の検索性が向上し、欲しい情報にもすぐにアクセスできるようになります。
またネットワーク上での書類のやり取りもできるので、紙の書類を郵送する、という作業からも解放されます。
②コストの削減
電子化によって紙の使用量、コピー代、紙書類を保管するファイル代、保管スペースの料金などのコストが不要となります。データ管理のため、自社サーバの費用がかかることも考えられますが、これについても近年、クラウドサービスなどが充実しており、大きな負担はない状況となっています。
③ 保存体制の強化
書類を電子化することでコピーやバックアップなどが可能となるため、重要書類の分散管理が可能となり、保存の安全性が高まります。
電子帳簿保存法を導入するデメリット
書類を電子化するためには、税務署に申請する必要があり、手間がかかります。また電子データのため、一瞬でデータが消失してしまう可能性もゼロではありません。
あえていえば、保存するのが電子データなので、分散管理などを怠ると、万が一のことがあれば一瞬にして消えてしまうリスクがあります。
また、クラウドサービスなどを利用した場合、運営会社が倒産してしまう可能性もゼロではありません。そのため運営会社の選択は慎重に行う必要はあるでしょう。