小規模企業のマーケティングを考える
最終更新日:2023-04-19

 「うちみたいな小さい企業でマーケティングなんて言われても…業界相手に仕事しているわけでもないし。お客さんのところに丁寧に顔出しして、いただいた仕事を丁寧にやる、それが大事だよね」
 小規模企業の経営者はそのように考えている人は多いのではないでしょうか。

 

 以前では考えられないくらい世の中の変化は速く、今のトレンドも、短いスパンで不要なものになってしまうことも少なくありません。
 世の中の変化をきちんと観察し、売れる商品を提供していくためには、自分の企業も常に変化するという姿勢が今後さらに求められてくることでしょう。
 
 そこで必要となってくるのがマーケティングです。
 とは言っても大企業のように予算や人員を割いて調査するものでなくて構いません。小規模企業には、小規模企業に適したマーケティングが存在します。

 

小規模企業のマーケティングは社長の仕事

 マーケティングとは、お客様のニーズに合った商品を、想定したターゲットに向けて発信するためのリサーチや宣伝活動を指しています(これだけがすべてではないですが)。
 その際重要になってくるのが質の高い情報の収集です。つまり、リサーチの段階で

 
  • お客様についての情報
  • 自社の製品やサービスの特長
  • 業界やライバルに関する情報
 

を集める必要があります。
 
 ではこうしたマーケティングに関わる大切な情報をどのように入手すればよいのでしょうか。
 これは、小規模企業において実はとてもシンプルなことで、社長の頭の中に存在しているのです。
 
 小規模企業の社長は、社長室に座り下から上がってくる決済事項を判断するだけという立場にはありません。常に営業の第一線に立ち、お客様と一番接点があり、要望を受け取り、そして自社の製品についての課題に対面しています。
 営業活動中は常にライバルの存在をひしひしと感じていますし、そこに負けないように何ができるかをいつも考えています。つまり、マーケティングに必要な事柄はもともと社長の頭の中にあると言えるでしょう。
 
 しかも小規模企業の社長が自ら行うマーケティングには、大企業には絶対に真似できない大きな利点があります。
 それは「スピード」です。どんな製品(サービス)にしていくのか。予算はどのくらいかけるのか。決定権がある社長が行っているのですからすぐに決めることができます。しかも課題が見つかればすぐに変更ができる。つまり小回りが利く点も、小規模企業ならではの利点といえるでしょう。

 

小規模企業のマーケティングのポイント

小規模企業は”特長”で勝負

 消費者に対する調査で、どのようなポイントで商品を選ぶのかという質問をよく目にします。多くの場合「価格の安さ」「品揃え」「商品やサービスの品質」といった答えが多いようです。
 
 しかし小規模企業の場合、こうした総合的な評価、つまり大企業と同じ土俵で勝負してもとてもかなうものではありません。
 ではどうするべきなのか?一つ言えるのは、小規模企業だからこそできることを追求すべきという事です。

 

 例えばキーワードとして考えられるのは

 
  • 個性的なこだわりのある商品(サービス)であること
  • きめ細かいサービスが受けられ、お客様の要望に細かくこたえられる
 

といった、大企業では素早く対応するのが難しい事柄が、小規模企業にとっての大きな強みになることが考えられます。

 

”個性的なこだわり”とは?

 では、個性的とはどういうことを言うのでしょうか?
 個性の表現の仕方にはさまざまな方法がありますが、「あそこはコレ!」と言えるものがあることが重要です。例えば中華料理屋さんを開店する時、他にもある普通の中華屋さんをまた開店させるのか。それとも「焼き小籠包が旨い店」と看板メニューを銘打って店を出すのか。
 
 分かりやすさ、そして「ここで食べたい」という一定のお客様を強く惹きつける力は後者にあるといえるでしょう。小さなお店を開店させるときに、この違いはとても重要です。
 
 逆に大きな店、チェーン店ではもっと広い層のお客様を集めることが不可欠なので、こうした手法をとるのは困難です。
 ですから、小規模企業では自社の「焼き小籠包」は何か?これを考えることがとても大切です。すでにあるのにアピールしてこなかったのであれば、改めて打ち出す必要がありますし、存在していないのであれば、新しく考える必要もあるでしょう。
 
 「これ」という存在を持てる企業は分かりやすい、覚えやすいという大きな利点を持つことになります。

 

きめ細かいサービスが受けられる

 これは多くの経営者の方も実感されていると思います。細かいところまで行き届いたサービスは、やはり小規模企業だからできることでしょう。相手の要望にフットワーク軽くこたえる、変更要望なども聞き、実現する。こうしたサービスは大きな武器となります。

 
 
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これだけは「やってはダメ」

「安く売る」は最終手段

 マーケティングの世界で古くから使われている言葉に「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」というものがあります。お客様が求めているものの本質を考える上でとても大切な視点です。
 
 ものを売るうえで必ず登場する「安く売る」という手法。これにも同じことが言えるのかもしれません。お客様が求めているのは「安く買う」ことではなく、「商品が持つ価値」なのです。
 勿論全く同じ価値のもの、あるいは許容できる範囲の差なら安いものを選択するのは当然のことです。しかし「安い」ことが第一ではありません。とにかく安かったら何でもよいというものでもありません。高く買いたいということではありませんが、最終的には「価値のあるもの」を買いたいと考えるものです。
 
 そもそも安売りの競争になったら、体力のない小規模企業は勝つことができません。それ以前に、そんなに安く売らなければならない商品で大企業は勝負をしたりはしません。違う商品で利益を上げることを目指します。
 
 しかし商品数の少ない小規模企業は、その「安い」商品から利益を上げ、会社をやっていかなくてはなりません。小規模企業が考えるべきは「価値」を感じさせること。その意味でも個性、こだわり、その企業にしかできない商品やサービスが大切になってくるわけです。

 

「増やさない」の大切さ

 小規模企業の商品やサービスを考えたとき、「あえて商品の種類を増やさない」という判断も必要となってきます。
 「強み」を活かし、伸ばすことが大切で、お客様にも「あそこはこれが強い」という認識を持ってもらうこともその延長線上にあります。しかし、商品を増やすことでこのせっかくの「強み」効果が薄れてしまう可能性があります。
 
 例えばマグロを専門に売る小さな鮮魚店があったとします。産地と鮮度にこだわった目利きの店主厳選のマグロだけを提供しています。一方、スーパーマーケットで大量に売られているマグロのお刺身があります。マグロ好きな皆さんはどちらのマグロに惹かれるでしょうか。
 
 多くの人は専門店に魅力を感じるはずです。しかし、その小さなお店がお客さんが多いことに気を良くして、お店を大きくし、あれこれとスーパーマーケットのような均一的な商品を並べだしたらどうでしょう。最大の強みであったマグロの魅力が弱まってしまいます。
 
 お客さんが来てくれるのだから、別の商品も売ればもっと儲かる。そう判断しがちですが、店のコンセプトに合わせて「あえて増やさない」という判断も時には必要なのです。