社会は「デジタル化を急ごう」という言葉で持ちきりです。会社業務においてもデジタル化が急速に進んでいます。
清算や申請書など社内の各種手続き、施設の予約や会議、出張の申請や書類の共有までデジタル化がすすめられ、パソコンやスマートフォンを使いこなせなくては一歩たりとも仕事が進まない、そんな状況になりつつあります。
そんな中、中高年を中心に、急速なデジタル化に置いてきぼりにされてしまう方も少なくありません。
今回は、コンピューターやインターネットを使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる情報格差(デジタルデバイト)がなぜ起こってしまうのか、その原因と解決策を考えていきたいと思います。
社内の情報格差が起こってしまう原因
専門用語の頻発
中高年の方に特に多いのですが、デジタルの機能を使い始めようにも、その設定や使い方の説明自体の意味が分からないという悲しい状況があります。用語が分からないから何が分からないか分からない、だから質問もできない、そんな状態です。
マニュアルがない
かつては購入した製品には紙の説明書(マニュアル)が付いてくるのが当たり前でした。その通りやれば間違いなし。戸惑いながらもマニュアルの存在に助けられ、数々の難関を乗り越えてきました。
ところが、スマホなどのIT(情報技術)機器やネットサービスの多くには、紙のマニュアルが存在しません。オンラインのマニュアルはあっても、どこから手を付けて良いのか分からない人にとって使いこなすことは非常に困難です。
ネットに慣れている人は、ネット上のブログや動画サイトなどを見て疑問を解決してしまいますが、慣れない人にとっては、「公式」ではない情報をどのように使いこなせばよいのか分かりません。
最初の設定を突破できない
最近は設定に関して分かりやすくシンプルなモノが増えてきましたが、ひところは非常に高い壁が存在していました。
例えばメール。メールを使うこと自体には問題なくても、最初の設定はデジタルが苦手の方にとっては超難関。「POP3」「SMAP」など、生まれて初めての(そしてメールを使い始めた後はほぼ出会わない)用語を前に設定せよと迫られて絶望した方がたも少なくないはずです。
デジタル化の中で新しい機能を前に同じことが起こっている可能性があります。テレワークするために最低限必要な自宅のWi-Fi設定やプリンターとの接続などもデジタルが苦手な人にとっては怖い存在です。
教えてくれる人がいない
親切に教えてくれる人が身近にいない、という問題もあります。テレワークが当たり前の現在、さらにこの状況は深刻かもしれません。できる方にとっては「何を甘えたことを」「みんな自分ですいすいやっている」と思われるかもしれませんが、そうでない方にとっては一つの細かいつまずきで、次へ進めずに挫折してしまうことがよくあります。しかし、ほとんどの方がサクサクと使いこなす中で、「分からないから聞くというのは迷惑なのでは」「恥ずかしいことなのでは」というためらいも存在します。
若者のPC離れ
デジタルデバイトは、デジタルに弱い中高年だけの問題ではなりません。デジタルを使いこなす若い世代にも起こっています。原因はPC離れ。今の若い世代はあらゆることをスマホで済ませているのでPCを必要としません。
スマホの設定は秒速でできるけれど、エクセルもワードも使えない。だから請求書も提案書も作れない。そんな若者も当たり前のように存在しています。PCを一生懸命覚えることからデジタルが始まった中高年とは全く逆の現象です。
しかし、ビジネスの世界ではまだまだPCが主流。これも立派なデジタルデバイトといえるでしょう。
そもそもITツールを否定する
「必要ない」「会って話すから心が通じる」「今までのやり方で十分やれてきた」。
中高年を中心にデジタルを理解できない、または怖いと感じる方々の中には、こんな「アナログ」な理由でデジタル化を頭から否定する方もいます。
こうした方がたも含め皆さんが心地よく参加できるようにするのも、社内のデジタル化の大切な目標です。
デジタルデバイト解消への取り組み
少しずつデジタル化を浸透させていく
企業の競争力の低下にもつながってしまうデジタルデバイド。中小企業はこれをどのようにして解消すればいいのでしょう。
それにはまず、デジタルに対する意識を変えることが重要です。
デジタル化は、ともすればITを使うということ自体が目的になりがちですが、デジタル化、IT化はあくまで仕事の効率を向上させるための道具であるという意識を忘れないことが大切です。自社の仕事を効率化するためには、何をデジタル化、IT化することが必要なのか。これをしっかり判断しましょう。
また、ことを急ぐあまり一気に進めてしまおうという考え方もデジタルデバイトをまねく根本の原因になりえます。
無料ツールなどのサービスも数多く存在しているため、まずはこうしたものを少しずつ取り入れながら、スケジュール管理などの身近なところからデジタル化を進めていきましょう。
ツールを導入する際は、基本的に複雑なツールの選定を避けます。無理なく進めていくことでデジタル化へのメリット、使い方も自然に浸透していくことになりますし、その便利さ(あるいは不便な部分)も見えてくるはずです。
・人材を育て、教育を行う
デジタル化を進めるためには、ITの知識を持った人材が必要です。社内に人材が足りていなければ外部の専門家にサポートを依頼することも可能ですし、その一方で社内の人材を育てる(あるいは採用する)ことも必要でしょう。デジタルに不慣れな方に対する初歩からのIT教育も必要です。
とはいえ、こうした教育を行うにもITの知識を持った教育係の存在が必要となり、中小企業では難しい面もあります。
また、こうしたIT化を進めるためには、そもそもIT化の効果を知っている上司の存在が不可欠となります。こうした面は経営者が積極的に判断を行い、人材を確保していくことも必要です。
教育に際しては外部の教育機関を利用したり、中小企業デジタル化応援隊事業やIT導入補助金といった国からの支援を積極的に活用することを検討するのも良いでしょう。