まずは建築業界で進む生成AI活用の現状を見ていきましょう。

●生成AIとは？

生成AIとは、AI（人工知能）の一種で、過去の膨大なデータを学習した内容をもとに、コンテンツを自動生成する技術です。

例えば「この文章を作成して」と指示命令すると、生成AIが自動で人間が作成したのと同等の質の高い文章を生成して表示します。これまでのAIよりも格段に性能が向上したことで、注目を集めており、あらゆる業務に役立てられています。

●建築業界における生成AI活用状況

建築業界においても生成AI導入が進んでいますが、まだ一部にとどまっており、利活用を検討している企業が増えている段階です。今後は検討段階からテスト、本導入と進めていくケースも増えていくでしょう。

●建築業界における主な生成AI活用分野

建築業界で生成AIの活用が期待されているのは次の分野が挙げられます。

・設計業務の効率化 設計の補助に役立てられます。例えば手書きのスケッチと建物をイメージした文章を生成AIに読み込ませ、デザインを起こすことができます。また建築の構造解析やエネルギー効率の予測なども可能です。

・工事計画の最適化・進捗管理 過去の工事データや気象データ、作業員の稼働データなどを学習させ、効率の良い工事計画を立案させます。またリアルタイムで進捗を追い、リスクや無駄のないスケジュール策定に役立てられます。

・工事現場の異常検知・安全管理・予測メンテナンス 従来型のAIが工事現場の異常を検知し、生成AIが分析して対策を提案するなどの方法で、安全管理に役立てられます。設備の故障や付随するリスクを事前に予測することも可能です。

・バックヤード業務の効率化 生成AIのテキストや画像生成などの技術を用いれば、企画書や報告書、会議の議事録作成などあらゆるバックヤード業務の支援が可能です。

・人材教育 従来の経験や知見などのナレッジを生成AIに学習させ、新人や若手職員が随時、生成AIチャットに疑問を入力して返答を得るといった人材教育における活用も行われています。

続いて、建築業が生成AIを活用するメリット・デメリットを見ていきましょう。

【メリット】

●設計プロセスの効率化・質の向上 生成AIが人間に代わって精密な設計デザインを担うことで、設計プロセスに無駄がなくなり、スピードも向上します。また正確さはもちろん、環境最適化された設計プランやコンセプトに基づく設計により質も向上すると考えられます。

●コスト削減 生成AIがバックヤードからコアとなる設計・施工管理などの業務を担うことで、かつて従事していた人員を削減できることで、人的コストや時間的コストの削減につながります。同時に人手不足への対応にも寄与するでしょう。

●労働災害の低減 労働災害は特に建設業と製造業で多発しており、予防するための取り組みが欠かせません。工事現場の異常検知などのリスク管理を、過去の労働災害データなどをもとに行うことで、より精度の高い現場管理が可能になります。

【デメリット】

●初期投資が必要 生成AIのシステム導入に際しては開発コストを含めてコストがかかります。運用コストと共に効率化や質向上などの成果につなげることで、長期的な視野でコスト回収をしていく考えが求められます。

●メンテナンスとアップデートが必要 生成AIは、学習させるデータの精査やセキュリティ整備、随時のアップデート対応などさまざまな運用業務が求められます。専門人材の確保が課題になってくるでしょう。

●職人の技術継承の問題 生成AIに熟練の職人の知見をデータとして学習させることは、未来につながる取り組みですが、AIだけでは職人が長年経験した貴重な技術を若手に継承することはできません。AIと人間それぞれの得意分野を見極めて、上手に共存していくことが必要です。

一部の建築業の企業は、すでに生成AIを活用しています。ここでは代表的な事例をご紹介します。

●建築設計

ある企業は、スケッチの3Dモデルや、顧客要望や環境条件、建築基準法などのデータと合わせて生成AIにインプットさせ、3Dの外観設計などを行う技術を開発しました。設計者が取り扱うプラットフォームと連携することで、設計業務の効率化につながる仕組みを作っています。

●生成AI×BIM

ある企業は、生成AIと、既存のBIM（Building Information Modeling／3次元建物モデル生成ソフト・手法）を融合し、BIMモデルの情報を引き出したいときにチャットを通じて取得できるシステムを開発しました。建築現場で必要な数値情報などを瞬時に引き出すことができるため、大幅な効率化につながっています。

●生成AI×現場管理アプリ

ある企業は、既存の現場管理アプリに生成AIの機能を組み込み、現場監督が生成AIからの安全対策の提案を受け、それを実行できるようにしています。具体的には日々、現場監督が登録する作業報告をもとに生成AIが最適な安全対策を提案します。事故防止や安全意識向上に寄与しています。

●専用対話型AIの導入

ある企業は、バックヤード業務も含めた業務効率化を目指し、生成AIによる自社専用の対話型AIを構築しました。情報は社内にのみ蓄積されるセキュリティに配慮された設計にすることで、情報漏洩のリスクなく、従業員全員が多様な業務用途で活用できるようにしています。

建築業界における生成AIの導入はまだ一部の企業に留まりますが、今後はその有効性が確かめられ、徐々に導入が進んでいくものと考えられます。

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